| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) H2-03

森林における炭素利用効率(Carbon Use Efficiency, CUE)の林分発達に伴う変化:ヒノキを例として

小川一治(名大・生命農学)

森林に代表される地上植物層による一次生産は大気圏と生物圏との間の炭素循環の重要な経路であると同時に、植物自体の成長を引き起こす基本的な過程である。このような過程において、炭素がどれだけ植物体に変換されているかその効率を示すパラメーターとして、純一次生産量/総一次生産量で定義される炭素利用効率(Carbon Use Efficiency, CUE)がある(Amthor 2000, Cannell and Thornley 2000)。

本研究では、炭素利用効率(CUE)林分発達に伴う変化がヒノキ苗木の初期段階を含むヒノキ林の地上部について解析された。この解析には、CUEの変化を決定する単純な数理モデルが生理学的機能量と重量バランスのデータを取り込んで開発された。CUEは地上部現存量の増加に伴い増加し、そしてその後減少する傾向にあった。苗木段階でのCUE値(0.28-0.39)は若木ないしは成木のCUE値(0.48-0.58)よりかなり低かった。生理学的機能量と重量バランスがCUEに及ぼす影響を調べるため、比総光合成速度/比呼吸速度(r/a)と葉現存量/地上部現存量(葉重比、yL/yT)が計算された。その結果、苗木段階における低いCUE値はr/a比ではなく、yL/yT比によるものであることが分かった。さらに、成木でのCUE値の減少はyL/yT比の減少変化に起因し、r/a比はCUEの変化に影響しなかった。yL/yT値の範囲(0.079-0.43)はr/a値の範囲(0.048-0.18)より大きかったので、CUE値はr/aよりyL/yTにより影響された。よって、CUEとyL/yTとの関係が双曲線式を用いて解析され、CUEはほぼ0.6の上限値に達し、一定となる傾向にあることが示唆された。

日本生態学会