| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) H2-05

生態系炭素循環への温暖化影響をフラックス観測データから検出するモデル解析手法の検討

伊藤昭彦(国立環境研究所)

陸域炭素循環は、地球温暖化によって影響を受けるとともに、その変化は大気CO2濃度と気候へのフィードバックとして作用する。陸域生態系の炭素循環にはすでに温暖化影響が発生している可能性があるが、それを観測から検出するのは重要な課題である。現在、世界各地で微気象学的な方法によって大気-陸域間のCO2フラックスに関する観測が行われているが、その継続期間はせいぜい10年程度であり、自然の気象変動や局所的撹乱の影響が混在する中から温暖化影響のシグナルを抽出するのは非常に困難である。そこで本研究では、フラックス観測データの解析に加えて、生態系炭素循環モデルによる感度分析と予測シミュレーションを組み合わせた手法の開発を試みた。最初に各地のフラックス観測ネットワークより公開されているデータベースから、比較的長い連続観測が実施されているサイトを抽出し、経年的な変動傾向を検討した。それらには、数年以上の期間にわたる正味収支の増加または減少を示すものもあったが、それを大気CO2濃度や温度の上昇と因果関係で結びつけるには不十分であった。次に、代表的な地点に陸域生態系モデル(VISIT)を適用し、過去の炭素収支変動に関する要因解析を行った。このモデルを用いることにより、過去の炭素収支の変動に対する温度、水分、日射、大気CO2、撹乱、そして窒素沈着の影響を分離評価することができた。最後に、気候モデルで予測された温暖化シナリオをモデル計算に入力する、陸域炭素収支への温暖化影響に関する近未来予測シミュレーションを行った。これは、フラックス観測サイトにおいて今後観測を継続した場合、どの時期に有意な温暖化影響が観測され得るかの目安を与えるものである。このような観測と融合したモデル研究を行うことで、陸域生態系モデルの精度を高め、それを組み込んで行われる将来の気候予測の信頼性向上につながると期待される。

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