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一般講演(口頭発表) H2-06
今後予想される大気CO2の増加は光合成を促進するが、温度の上昇は呼吸による炭素消費を増加させる。将来環境下の植物物質生産における呼吸の割合を見積もることは、炭素収支だけではなく作物生産を予測する上でも極めて重要である。本研究では、イネを対象に農家水田で実施した開放系大気CO2増加(FACE)と水温上昇処理が、暗呼吸速度、乾物生産および土壌から田面水を介したCO2放出量に及ぼす影響を調査した。
岩手県岩手郡雫石町の農家水田にFACE区(外気+200ppm)と外気CO2濃度区を各3反復設置し、各処理区内には水温上昇区(+2℃)と対照区を設けた。イネの暗呼吸速度(Rp)と根の侵入がない土壌から田面水を介して放出されるCO2フラックス(Rs)を、4生育時期(分げつ期、幼穂形成期、出穂期、登熟中期)に密閉法にて測定した。暗呼吸測定後、測定株を採取して乾物重を測定した。
単位面積あたりのRpは、出穂期まで増加し登熟中期には大きく減少した。CO2増加と水温上昇は、有意ではなかったものの全生育時期において単位面積あたりのRpを増加させる傾向にあった。一方、RsはRpの1%以下であった。乾物重は生育期間を通して増加した。また、CO2増加と水温上昇は、すべての生育時期に乾物重を増加させる傾向にあった。乾物重とRpは、各生育時期において極めて高い正の相関関係にあり、乾物重当たりのRpに処理効果は認められなかった。以上から、CO2増加および水温上昇は、イネの暗呼吸速度に影響を与えるものの、その効果は主として成長量への影響を介したものであることが示唆された。