| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) I2-01

人間移動の数理モデル:都会と田舎

*山村則男(地球研)

最近のモンゴルでは人口が急激に増加しているが、その増加は首都ウランバートルのみであり、それ以外の草原地域の人口はほぼ一定である。草原では遊牧がおもな生業であるが、牧民はウランバートルの近郊に集まる傾向があり、集中した地域の草地の劣化が進行している。このような現象を解析するために、数理モデルを構築した。

草地にはn人、都市にはN-n人住む。人間の移動は広域で起きるが比較的短時間のうちに起きるので、総人口の増減はパラメータNの変化として扱う。草地の利用可能な面積の割合がfで、劣化して利用できない部分の割合が1-fである。fの時間変化は、df/dt=a(1-f)f-bnf

草地での人口の変化は、dn/dt=-(v-bf)n(v>bf のとき)、dn/dt=(bf-v)(N-n)(v<bf のとき)

つまり、都市の価値vと草原の価値bfを比べて、大きい方に移動するが、移動率が価値の差に比例しているとする。

上記のダイナミクスは、人間が草地のみに住む場合、都市のみに住む場合、両方に住む場合(草原の人口はNによらず一定)の定常解があり、それぞれが大域安定となる(新しいタイプのリヤプノフ関数を使って証明できる)。

[モデルの拡張]

都市の価値が人口に依存して変化するれば、リミットサイクルや双安定が出現する。人間の移動にコストがかかる場合には、平衡点は1次元安定集合となる。都会の価値が周期的に変動するとき、移動のコストが高いほど移動のタイミングが遅れ、移動数の変動幅も小さくなる。3地点モデルでは、理想自由分布が達成され、都市近郊の人口が多くなり草地は劣化する。このときも全人口が増えたとき、草地の人口は一定で都市人口のみが増える。今回のモデルは、遊牧の代わりに農業や漁業を考えても同様に成立すると考えられる。

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