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一般講演(口頭発表) I2-04
高度経済成長における湖沼周辺の都市化等に伴い大量の栄養塩が湖沼へ流入し、富栄養化が問題となっている。湖沼は一度富栄養状態へ移ると、浚渫などの対策を講じてもその改善が難しい事が知られている。本研究では、富栄養化対策として実施されている水生植物の刈り取りに着目し、抽水植物の刈り取りによる富栄養化の改善の可能性を検討するために,湖沼における3栄養段階(動植物プランクトンと魚類)の捕食-被食関係と栄養塩の物質循環、流入栄養塩をモデル化したabs.-CASM (DeAngelis et al. 1989 Am Nat 134:778)に抽水植物を組み込んだ数理モデルを構築した。ここで、抽水植物(全体量一定)はデトリタスから栄養塩を吸収し、枯死後に再びデトリタスになるとし、刈り取りは枯死直後に実施すると仮定した。
数値解析を行なった結果、4つの状態変数(溶存栄養塩・植物プランクトン・動物プランクトン食魚・デトリタス)において、カタストロフィック・レジームシフトが確認された。湖沼の富栄養化を植物プランクトンの量により定義し、抽水植物の刈り取りによる改善効果を検討した。その結果、抽水植物の刈り取り効果は流入栄養塩量に依存しており、流入栄養塩量が多い場合は、刈り取りだけではその効果が現れないことが分かった。一方、流入栄養塩量が少ない場合では、刈り取り割合の増加によって、富栄養な状態で定常状態にあった系はある閾値でホップ分岐を起こしリミットサイクルが生じた。さらに刈り取り割合を大きくすると、リミットサイクルの振幅が大きくなり、富栄養でない状態へ移ることが示された。この結果から、実環境においても湖沼の各生物量が大きく変動し続ける状態を富栄養化を改善できる兆しとして活用できる可能性が考えられる。