| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) I2-09

共生関係を持つ生物の生息地拡大におけるトンネル効果

山内 淳(京大・生態研センター)

近年、荒地への植物の侵入による一次遷移において、菌根菌が重要な役割を果たしていることが明らかにされつつある(Nara 2006など)。植物は菌根菌と共生関係を結ぶことで、荒地でも安定的に存続することが可能となる。しかし一般には、共生関係を持つ種においても分散は独立に起きることが少なくない。植物と菌根菌においても両者の分散は独立に生じているであろう。本研究では、このような植物と菌根菌の共生を想定して、共生関係にある生物が新たな生息地に定着する確率を、拡散方程式に基づく変動環境下での絶滅確率の計算を応用して解析する。

共生体の菌根菌は、荒地おいて単独では存続できないであろう。他方、植物は単独でも一時的にコロニーを維持することができるかもしれない。しかし、コロニーの成長率が平均的に負ならば最終的にはコロニーは絶滅してしまう。その絶滅の前に菌根菌を獲得すれば、成長率が正に転じて一定の確率で定着は成功する。このように、最初のプロセスが完了する前に次のプロセスが生じることで状態の推移が進むことを「トンネル効果」と呼ぶ。生物学的な文脈での「トンネル効果」の解析としては、細胞の癌化プロセスについて研究が進められている(Iwasa et al. 2004など)。そこでは細胞状態の「人口学的確率性」が主要なメカニズムであるが、本研究ではコロニーの成長における「環境的確率性」に注目する。

理論モデルの仮定として、新しい生息地への植物の侵入はまれな長距離分散によって起こる、コロニーは近距離分散や栄養繁殖によって成長する、菌根菌の感染確率はコロニーサイズに依存しない、コロニーに菌根菌が感染すると短期間でコロニー全体に感染が広がる、といった状況を想定する。本モデルの解析により、植物単独および植物と菌根菌の共生系それぞれのコロニー成長率の平均と分散の値が、コロニーの定着隔離を大きく左右することが分かった。

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