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一般講演(口頭発表) I2-14
根室半島・歯舞湿原で,花粉と大型植物化石,甲虫化石を同一試料から採取し,解析を行った.露頭調査およびボーリング調査を行い,堆積環境に注意しながら,湿原堆積物の水平分布や,ブルト−シュレンケといった過去の微地形にも着目することで,湿原内の生物群の分布変遷について明らかにした.
湿原が形成された,ミツガシワが産出した時代(12,290yrB.P.)は,亜間氷期と考えられ,温暖・湿潤な気候になった時代である.この時代より以前に凹地が形成されており,凹地の滞水する環境にミツガシワが生育していたものと考えられる.これ以前の寒冷・乾燥した気候下で週氷河現象が起こり,台地上に凹地などの周氷河地形が形成されたと考えられる.その後,約12,000B.P. yr.〜8,000B.P. yr.に寒冷・乾燥した気候から温暖・湿潤化へ急激な気候変動が生じ,台地上の凹地に水域が生じ,沼沢化が進んだ結果,ヨシ,スゲ類の繁茂する湿原が形成されたと考えられる.
約8,000〜5,000B.P. yr.のヒプシサーマル期の最温暖期に植物遺体,甲虫化石が減少・消失した.これは,温暖な気候下で,微生物の活動が活発になり,腐植質が分解されたのが大きな要因と思われた.その後,火山灰を含むシルトが堆積したことによって,水域が陸化し,ミツガシワの生育していた環境が,ヨシやアゼスゲ節の生育する湿原になったと考えられた.
約4,500B.P. yr.以降は現生の植生に近く,ヤチヤナギ,シバスゲ節,ゴミムシが継続して産出した.ヤチヤナギの生育する環境は,地下水位も低いため,湿原は霧と降雨のみで涵養される高層湿原に変化したと考えられる.水域が周辺になくなるとともにより乾燥した湿原になったことを示唆する.