| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-004
屋久島西部域は、標高2000m近くにも及ぶ自然植生の垂直分布が見られる世界的にも貴重な地域である。東アジアの湿潤地域における垂直分布を決定する要因は、主に気温の低下によるものであるが、屋久島の標高傾度に沿った温度環境の観測と植生構造の変化を考察した研究はこれまでほとんど行われていない。そこで本研究では、屋久島西部域において標高別にデータロガーを7箇所、植生調査区を9箇所設置し、温度条件の変化と植生パターンの変化との対応関係を明らかにすることを目的として調査を行った。
2000年から2007年までの8年間の気温データの測定値から、各標高域における月平均気温を求め、各月での気温の逓減率、最寒月平均気温(CMT)、暖かさの指数(WI)などの項目を解析した。その結果、最寒月である1月は逓減率が0.76℃/100mとかなり大きな値となり、その逆に6月は0.53℃と小さな値を示した。日本付近の常緑広葉樹林の分布限界を設定する温度条件であるCMT=−1℃とWI=85℃・月となる標高を求めると、CMT=−1℃となる標高は1701m、WI=85℃・月となる標高は1240mとなった。植生調査の結果から、標高1100〜1200m付近ではスギ、モミとともにアカガシ、ウラジロガシ、イスノキといった常緑広葉樹が高木層を形成するが、WI=85℃・月となる標高1240m以上になるとほとんど個体は見られなくなった。WI<85℃・月かつCMT>−1℃となる標高域ではスギが優占し、亜高木〜低木層ではシキミ、サカキ、リンゴツバキといった常緑広葉樹が低標高域から連続して分布するが、樹高は低下する傾向にあった。また各常緑広葉樹は、標高が変化すると下層に分布していた種が高木層を形成し、その逆に高木層を形成していた種が下層に分布するようになるという階層構造の変化が見られた。