| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-006

高山矮性低木の生育特性とシュート内物質移動

*柿木里美,増沢武弘(静岡大・理・生)

高山風衝地には常緑の矮性低木が多く分布し、その樹形は厳しい生育環境に順応している。またそれらの樹形の成り立ちはシュートの成長とそれを支えるシュート内物質の特徴から理解することができる。矮性低木の樹形の特性は、現在の植生分布に重要な影響を与えているものと考えられる。

本研究では、八ヶ岳の高山帯に生育する常緑矮性低木3種(ガンコウラン・ミネズオウ・コメバツガザクラ)を対象にシュートの形態、成長量、群落形成、シュート内物質の季節変動、各群落の分布を調査し、各々の項目について比較を行った。またマット状の群落を形成するガンコウラン、ミネズオウはパッチの内部と周辺部に分け、群落を拡大していくための先行枝、群落を維持していくための構成枝を調べ、2種で役割の比較を行った。

コメバツガザクラは岩場の隙間に比較的小さな群落を形成していた。そのため3種の中ではシュートの更新頻度が高く、生産性の高い葉を付けた。ガンコウランは当年のシュートに生産物の多く投資し、成長量の大きいシュートを持っていた。ミネズオウは厚く強固な葉を展開するが、成長量は小さく1,2年目の葉がシュートあたりに多くのバイオマスを占めていた。またガンコウランは先行枝をパッチの周辺部に多く配置し、それらが群落拡大能力に大きく寄与しているものと考えられた。ミネズオウにおいても構成枝と先行枝の違いは見られたが、その差は比較的小さく、先行枝による群落拡大能力は見込めないものと思われた。分布の調査により、ガンコウランはハイマツ林縁や斜面下部などの風の影響を受けにくい場所で大きな群落を拡大し、ミネズオウは斜面上部や裸地など風が直接吹き付ける場所で強固な葉を維持し、比較的小さな群落を形成していた。高山における調査地では圧倒的にガンコウランの分布量が大きかった。上記の3種の分布は各々の樹形、群落の成り立ちにより大きく影響されるものと示唆された。

日本生態学会