| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-008
薪炭林や農用林として維持されてきた里山二次林では,管理の放棄による植物多様性の減少が問題となっている。これまで,主な里山の立地である丘陵地の場合,下刈りなどの植生管理を再開することで,丘陵地の微地形区分に応じた多様な林床植生が成立することが知られている。管理に対する植生の応答は比較的速やかであることから,埋土種子由来の種が重要な役割を果たすことが示唆されるが,微地形区分ごとに実際の埋土種子組成の違いを把握した例はない。そこで本研究では,微地形に依存して埋土種子組成は異なり,それが林床管理後の現存の林床植生と対応することを仮説とし,丘陵地二次林における埋土種子組成と現存植生との対応を明らかにした。丘陵地の主要な3つの微地形区分で,植生管理状況の異なる調査区を合計9カ所選び,出現実生調査法により埋土種子組成を把握した。また,埋土種子採取範囲の現存植生調査を行った。その結果,発芽実験で出現した埋土種子は156種6151個体であったが,現存植生と共通する種は限定的であった。9カ所の微地形−植生管理単位ごとの埋土種子組成は,種組成は異なるものの,既往研究で示された微地形−植生管理単位ごとの現存林床植生と類似した布置になっていた。また,埋土種子集団の種多様度も,現存植生の種多様度と対応していた。つまり,微地形区分ごとに埋土種子組成は大きく異なるものの,林床管理された場所に典型的にみられるような種の多くは,放棄された場所の埋土種子に含まれておらず,管理再開後の速やかな林床植生の変化に,埋土種子の貢献は少ないことが示された。これは,林床管理後に微地形単位に応じた多様な林床植生が形成されるためには,埋土種子からの再生ではなく,周辺に残存していた個体群からの移入が前提になると示唆される。