| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-009
シカ食害が顕著な丹沢山地の主要なブナクラス森林植生の後退について、既に1964年(宮脇ほか 1964)から1997年(村上・中村 1997など)の変化について報じた(村上2005)。2007年7月発行の新たな調査報告において近年の植生状況が公表された(丹沢大山総合調査団 2007)。本発表はそれらの資料を用い、1964〜1997〜2007年の丹沢山地の主要なブナクラス森林植生の変遷について、および丹沢大山地域の植生変化の概略を報告する。
資料は上記、既存の植物社会学的な調査資料を用いた。森林の組成の変化は時系列的な比較を行うため調査地を極力限定する必要があり、3調査次に比較的高い密度で調査資料が得られている東丹沢の丹沢山〜堂平周辺に絞った。比較対象は成帯的にすみ分ける2タイプのブナ林であるヤマボウシ−ブナ群集およびオオモミジガサ−ブナ群集、そして渓谷林であるイワボタン−シオジ群集とした。
3次の調査資料の比較の結果、以下の点が明らかとなった。
1.シカ密度の高い東丹沢の森林は林内植生が消失し、林床は裸地化しつつあるが、依然として3群集の種組成に基づく同定は可能である。
2.3群集の群集標徴種・区分種は1964〜1997〜2007年にかけて徐々に消滅し、特にオオモミジガサ−ブナ群集においては1964年の12種が3種に減じた。群集としての独立性は著しく低下しつつある。
3.1997年にはミヤマタニソバ、バライチゴ、フタリシズカなどのシカの非食および非嗜好性植物が3群集全てに出現したが、2007年ではそれらに加えヤマカモジグサ、アシボソなどの非嗜好性の林縁植物などが新たに共通して出現した。
4.森林植生以外ではオオツヅラフジ−マタタビ群集などの大形藤本植物群落やヌマハコベ−タネツケバナクラス、シロザクラスが丹沢山地全域で消失/衰退した。