| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-011

分布北限域におけるブナ優占林分の齢構造

*後藤亮太(北教大・札幌),松井哲哉・倉本惠生(森林総研・北海道),小林誠(北大・環境科学),並川寛司(北教大・札幌)

ブナ分布北限域で最北東端に位置するブナ優占林として,蘭越町のツバメの沢ブナ林が知られている.このツバメの沢から南方約4 kmの地点でブナの優占林分が確認された.この林分は,舘脇(1948)が記載した「三之助第一川の林分」に相当する.この林分の齢構造を明らかにするために,斜面に沿い幅50 m,長さ150 mの調査区を設定した.胸高直径(DBH)5 cm以上の樹木個体(幹)を対象に種を記録し,DBHと調査区内の位置を測定した.DBH 10 cm以上の幹については材サンプルを成長錐によって採取し,樹齢の推定と年輪幅の測定を行った.また,調査区の地形をレベル測量によって記載した.

樹齢が推定できた材サンプルは合計395本で,このうちブナは239本(60%)を占めていた.全15種を込みにした樹齢の頻度分布には50−60年にモードが見られ,ブナの場合も同様であった.樹齢階級別にブナの空間分布をみると,樹齢90年以下の個体は調査区全体に分布していたのに対し,樹齢90−120年の個体は調査区の上端から25 mおよび90 m付近に見られる遷緩線の下方に偏って分布していた.また,ブナ以外の種も含めた樹齢120年以上の個体は,下方の遷緩線よりも上方の斜面にやや偏って分布していた.

樹齢が120年以上の個体の年輪幅の5年移動平均(傾向曲線)を見ると,多くの個体で50±5年前に成長の急な好転が見られたのに加え,遷緩線の下方に位置する個体には約100年前に成長の急な低下が見られた.このことは,調査区全体で50±5年前に,遷緩線の下方で約100年前に何らかの撹乱が生じたことを示唆しており,この二つの撹乱を契機にブナが更新したことが予想された.

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