| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-013

宮島弥山原始林におけるモミの分布と更新

沖宗一郎(広島大・総科),奥田敏統(広島大・院・総科)

モミ林は常緑広葉樹林帯から夏緑広葉樹林帯への移行帯に分布し、“中間温帯林”を形成するが、必ずしもそこだけに分布しているわけではない。また、中間温帯林では両植生帯要素の種が気候帯に沿って出現する。そのためこの移行帯が森林の種組成上、普遍性の高いものであるかについては不明な点が多く、モミ林の植生学的位置づけはいまだに検討すべき要素が多い。

宮島では標高300m以上が中間温帯に相当する地域とされるが、それ以下の低海抜地にもモミが分布している。また、モミの生育する地域は世界遺産に登録され、重要な観光資源であるが、島内においてモミの更新に関する研究は皆無である。よって、本研究では、島内のモミの分布および更新状況を明らかにし、今後の植生管理のための基礎資料とする。

島内でモミが優占する林分で主に植物社会学的植生調査を行い、出現したモミは全個体の胸高直径(DBH)を測定し、スタンドの位置する標高、微地形も記録した。植生スタンドを主成分分析によって序列化し、標高で識別すると二つのスタンド群に分かれた。また、モミの出現したスタンドのほとんどが標高150m以下であったため、調査地のモミ林の分布は中間温帯とされる地域ではなく、低海抜地の常緑広葉樹林帯に偏っていることが示唆された。

さらに、モミの更新と地形などの環境要因との関係を明らかにするため、各スタンドのモミのDBHデータを地形別(尾根と斜面上部、谷と斜面下部)に集計し、直径階分布の比較を行った。すると、繁殖能力のある成熟木は谷・斜面下部に多いが尾根・斜面上部にはほとんどなく、繁殖能力のない稚樹はその逆であったため、自然更新は難しいことが示唆された(コルモゴロフ−スミルノフ検定、p<0.05)。しかし、砂防ダムや道路沿いでは中径木が見られるため、モミ林の管理をしていく場合、それらを活用して更新させることが効果的だと考えられた。

日本生態学会