| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-028

上高地梓川における河畔林への氾濫が林床植生の構造・種組成に及ぼす影響−氾濫による撹乱と一年後の植生回復−

*川西基博(立正大・ORC),石川愼吾(高知大・理)

上高地梓川では,ヤナギ科などの先駆樹種群落に,ハルニレやウラジロモミ,ヤチダモなどの遷移後期種が定着するためには,氾濫によって林床植生が破壊される必要があるといわれている.2006年7月の氾濫では,河畔林の林床植生のみが約0.5haにわたって破壊された.この氾濫では,礫堆積地域,砂堆積地域,および厚い土砂の堆積はなく水流に林床植生が倒された地域(水流通過地域)が認められた.撹乱状況の異なる上記3地域と氾濫が及ばなかった無撹乱地域の4地域において,氾濫の翌年(2007年9月)における林床植生の回復状況を調査した.無撹乱地域ではハンゴンソウの優占する林床植生が発達しており,草本植物の総地上茎密度は平均95.3本/m2,群落高は平均181cmであった.樹木と草本の当年生実生は,それぞれ0.7個体/m2,27.7個体/m2であった.礫堆積地域と砂堆積地では生残した林床植物はみられず,当年生樹木実生がそれぞれ3.2個体/m2と5.0個体/m2,当年生草本実生がそれぞれ0個体/m2と3.8個体/m2発芽した.一方,水流通過地域では平均27.4本/m2の草本植物が生残しており,群落高は平均38.0cm,植被率平均27.2%であった.当年生実生は草本で13.8個体/m2,樹木で2.0個体/m2であり,比較的多かった.上記の当年生樹木実生は,いずれの地域でもオオバヤナギ,サワグルミ,タニガワハンノキなどの先駆性樹種が主であり,遷移後期種は含まれていなかった.砂および礫の厚い堆積の生じた地域では,林床植生が壊滅的に撹乱をうけ,樹木・草本ともに種子から発芽した個体が定着すると考えられた.一方,水流によって林床植生が倒された地域は無撹乱地域よりも群落高・植被率ともに小さかったが,生残した草本種が速やかに林床植生を回復することが予想された.

日本生態学会