| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-034

分布フロントのブナ林にブナのスペシャリスト植食性鱗翅目は追随分布しているか?−森林帯境界域における樹木群集の地理的推移と植食性鱗翅目の種組成−

*小林誠(北大・環境科学),吉田国吉(芽室町),甲山隆司(北大・環境科学)

植物種の非分布域への侵入成功には、分布フロントにおける種依存的な捕食者からの逃避が機能する可能性がある。しかしながら、分布フロントの集団への種依存的な捕食者の追随性や、その影響について評価した研究は見当たらない。冷温帯の優占樹種ブナには数種のスペシャリスト植食性鱗翅目(以下Sp)が存在し、ホストへ大きな被害を及ぼす種も報告されている。現在の分布北限のブナ林は、後氷期の分布拡大で最も新しく侵入した最前線の集団と考えられ、分布フロントには飛び地的に小集団が分布し、連続分布する集団とは空間的に隔離された集団が形成されている。本研究では、ブナの分布フロント(森林帯境界域)における樹木群集の地理的推移と、数ヶ所のブナ林におけるブナの植食性鱗翅目の種組成、およびSpの分布の有無を明らかにした。

ブナを含む樹木群集の種多様性は森林帯境界域において上昇し、ブナを欠いた種多様性の高い森林群集へと推移した。これはブナのSpにとり、森林帯境界域における資源の集中性とホスト発見確率の減少を意味している。

調査したブナ林で、計25種のブナの植食性鱗翅目と、うち4種のSpが確認された。そして、分布最フロントのブナ林においてもSp1種の生育が確認され、Spの追随分布の事実が明らかとなった。しかし、ブナの連続分布域内に見られたような個体サイズ・被食量共に大きいSpであるブナアオシャチホコ等は生息せず、森林帯境界域が障壁となりSpの分布に制限が生じていた。これには、連続分布するブナ林からの距離的な制限、およびホスト侵入後の時間的な制限や、Spの集団維持がホスト資源の量的分布に強く依存するような資源的な制約の可能性がある。

以上のことから、森林樹木群集タイプの境界領域はSpの分布に遅延的追随性をもたらし、分布フロントにおけるブナの侵入成功・優占性獲得に寄与する可能性を示唆した。

日本生態学会