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一般講演(ポスター発表) P1-038
弥陀ヶ原(標高1930m,面積約7km2)は,約10万年前の立山火山噴出物によって形成された台地で,冬季には5m程度の積雪があるため,無雪期間は150日程度と短く,池塘と呼ばれる水たまりが点在し,多くのの湿性植物が生育している。しかし,日本のミズゴケ約35種類(立山では10種類)のうち,弥陀ヶ原では3種類しか確認されていない。そこで,弥陀ヶ原におけるミズゴケ分布と生育環境の関係を明らかにするために,2007年7月から10月に池塘20カ所において,各池塘の水質(pH,電気伝導度,水温,主要イオン成分,酸素同位体比,ケイ酸濃度)の季節変化を測定し,ミズゴケの生育状況を記録した。池塘や湿地内を流れる沢水のイオン成分濃度は降水とほぼ等しく,貧栄養とされる一般的な高層湿原と比較しても非常に低濃度で維持されていた。SO42−,Mg2+,Ca2+は蒸発による濃縮程度を示す酸素同位体比と正の相関を示し,これらは主に土壌から溶出し再吸収されにくい成分であると考えられた。一方,その他の陽イオン,陰イオン成分では濃縮効果は見られなかったので,外部から供給されたイオン成分のほとんどは,湿原で吸収されていると考えられた。出葉期にはケイ酸濃度は低く,落葉時期にはK+が急増した。9月以降は海塩輸送の影響も示唆された。池塘の水が干上がった後に降水によって復活した全ての池塘では,新たなミズゴケの定着・増大が観察された。また,アンモニウムイオン濃度の高い池塘ではミズゴケは観察されなかった。弥陀ヶ原はミズゴケの泥炭化によって生じた高層湿原ではなく,大量の雪解け水などによってさらに貧栄養な環境が維持されミズゴケ層の発達が妨げられた湿原であることが示唆された。