| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-050

増水が河川の岩場に生育するユキヤナギ個体群に与える影響

芦澤 和也(明治大・院・農)

一般的に増水は河川の植生に大きな影響を与える。渓谷域の岩場に自生するユキヤナギSpiraea thunbergiiは、水流による物理的破壊、土砂による埋没に対して、強い萌芽再生力によって植物体の急速な回復をはかることが可能である萌芽性植物であると考えられえている(佐々木1996)。しかしながら、本種の個体群を規定する大きな要因であると考えられる増水が個体群に対して具体的にどのような影響を与え、どのように本種の更新に寄与しているかを明らかにはされていない。そこで、本研究では、比高ごとの本種の生育環境と、本種の当年生個体と2年目以降の個体の生残の経時的変化の間の関係性を明らかにすることによって、増水がユキヤナギ個体群に与える影響を解明することの一助とすることを目的とする。

増水の影響を調べるために、水面から3mくらいの高さまでユキヤナギが分布している岩場を多摩川上流域(東京都西多摩郡奥多摩町寸庭)から選び、調査区とした。調査区において、多摩川の流れに対して垂直にベルトトランセクトを3本設け、それぞれのトランセクトに水面から25cmから3mの高さまで25cmおきに20cm×20cmのコドラートを設置した。そこで、コドラート内における岩と蘚苔類の割合、当年生実生の生育段階別の個体数、二年目以降個体の個体数と各個体の樹高、地上幹数を2007年6月から12月までおよそ1月に1回、調査した。

2007年6月に出現した当年生個体の総個体数は、8月になるとどの比高の個体についても概ね減少した。9月上旬の台風9号によって、平水時の水面から最大で約5mの高さまで水面が上昇した痕跡が残っており、10月の調査時において、当年生個体は、全て消失し、二年目以降の個体については、生存した個体と消失した個体があった。当年生個体は、長時間冠水される大規模な増水によって、定着が不可能になることが示唆された。

日本生態学会