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一般講演(ポスター発表) P1-051
タデスミレ Viola thibaudieri は,スミレ科の多年生草本で,高さ30〜50cmの地上茎にタデ類の葉に似た葉と白色の花をつける.本種は,本州中部に限定的に分布し,環境省版レッドリストでは,絶滅危惧IB類にリストされている.
タデスミレは種子繁殖により更新するが,自生地では実生および小型個体に乏しいとの報告もあることから,タデスミレの個体群の維持や保全上,実生の生育適地を明らかにすることが重要と考えられる.そこで,タデスミレの自生地において,実生の発生実態を確認するとともに,その定着条件について検討した.
林冠の鬱閉したミズナラ天然林床に調査区(15m×15m)を設置し,タデスミレの生残状況,サイズ,ステージ,生育位置と,環境条件として,開空度(全天空写真から算出)・土壌水分・草本層植被率・立木密度の計測を行った.環境条件の計測は,調査区内を1m四方に分割したサブプロットごとに行った.
タデスミレの当年生実生は,前年繁殖個体の近傍に多くみられ,実生の分布パターンの解析から,タデスミレの種子分散は,親個体から約1〜1.5m程度である可能性が示唆された.実生の発生環境を,一般化線形モデルを用いて検討すると,実生発生に対して,周辺前年結果数の影響が最も大きかった.実生の定着条件として,枯死率の高かった小型個体の生残/枯死と環境条件の関係について,同様に一般化線形モデルを用いて解析すると,小型個体の生残に対して,開空度と前年地上茎高が正の,草本層植被率が負の効果を示した.これらのことから,鬱閉林床に生育するタデスミレでは,前年繁殖個体の近傍で実生が発生すること,また,その後の定着には,他の草本等の被覆と地上茎の伸長による光獲得状況の差異が重要な要素となっていることが考えられる.