| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-055
推移行列モデルは植物の生活史を解明する強力なツールであり,個体の寿命や各ステージの成長速度や死亡率,個体群の安定性などを推定することができる。また、推移行列モデルはマルコフ過程の枠組みにあり,過去の履歴を反映した解析が困難である。このことは2回だけの個体群モニタリング・データから様々なことが予測できるという利点ともなりうるが,特に潜在的に長命な種においてはたった2回の短期間に行われた観測から生活史を推し量るという危うさにもつながる。
我々の過去12回の調査から,多年生林床夏緑草本クルマバハグマPertya rigidulaは潜在的に長命であり,種子発芽から繁殖ステージに達し次世代を残すまでに最短で25年程度,時には百数十年の長い年月を要すること,繁殖ステージに達するとその後は繰り返し繁殖し80年程度は生存することが明らかになっている。また,若年小個体では死亡率が非常に高く,ある程度の大きさに達したものは生存率が急激に改善されること,成長が非常に遅く,時として成長が停滞・縮小することなども明らかになっている。これらの結果はカプランマイヤー法による生存解析など履歴を含んだ手法によって,得られている。
クルマバハグマの長期データから一年ごとの推移行列が10シート作成できるほかに,2,3,4・・・年おきの推移行列を作成することもできる。履歴のある解析法との比較を通して,長命な植物の生活史解析において,有効な推移行列解析法を考えてみたい。