| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-056
天然集団の保全を進める上で、花粉や種子を介した遺伝子流動の状況を把握し、遺伝的多様性の維持機構などを解明することは重要である。針葉樹においては、花粉飛散の解析については多く進められてきたが(Schuster and Mitton 2000他)、種子散布についてはあまり着目されてこなかった。遺伝子流動のプロセスを理解する際、マツ属樹種のように、風散布で翼を持った種子を産し、高い種子散布能力を有する樹種では、種子散布による遺伝子流動への寄与も正確に把握する必要がある。本研究では、針葉樹の雌性配偶体を利用した、精度の高い種子の両由来親の特定法(Iwaizumi et al. 2007)により、アカマツ天然集団における種子散布の状況を4年間にわたり解析した。
尾根沿いに生育するアカマツ集団に設定した試験地(福島県いわき市;250m×150m)内の、成木個体(約460個体)及び2003〜2006年に5地点において収集された自然散布種子(約1,300個)を対象に、8SSR遺伝子座を用いたDNA分析を行った。
2003〜2006年において捕捉された散布種子量はそれぞれ318.0、141.6、73.6、57.6個/m2であり、2003年が豊作年であった。種子親が試験地外の成木個体と推定された割合は2003年(約26%)が2004、2005年(約19、18%)よりも大きく、種子の散布距離についても同様に、2003年では上記2ヶ年に比べて散布距離は長かった。2006年は他の3ヶ年との有意な差はみられなかった。また、種子親として寄与した成木個体の多様度は、2003年における種子親組成が他の3ヶ年よりも有意に多様であった。
年次間での種子散布距離の違いと、結実の豊凶や風速等の気象条件の間には明瞭な関係はみられず、今後は種子散布の年次変化をもたらす要因の解明が重要であろう。