| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-057

年輪解析による知床針広混交林トドマツ個体群のパッチ動態

島谷健一郎(統数研)*,久保田康裕(琉球大)

北海道知床半島の針広混交林における約400本のトドマツ年輪データを元に、小規模撹乱を基軸に置く森林動態について、赤池統計学に沿って考察する。

赤池情報量規準(AIC)を単なる統計手法のひとつとして扱う誤解が、本学会に蔓延している現状は憂慮せざるを得ない。乱暴な表現ではあるが、赤池統計学は、メカニズムが不明または著しく込み入った現象に対し、正しいモデルを探るより前に、実用的観点から、データを元によりマシなモデルを選ぶ事を目標に置く。P値により仮説を棄却する従来の統計的手法と、出発点から発想の異なる統計科学である。数値で表せるような明確な仮設を伴わず、コントロールもされていない天然林の長期動態データは、この科学方法論で扱われる事が望ましい。

調査地は、設立後ほぼ20年を経過した2haプロットである。まず年輪成長データから、成長が急に早くなった年を、AICによって一定の基準で自動的に選び出せる数理法と、そのアルゴリズムを構築した。次に急成長を始めた個体について、プロット全体の年変動、続いてその空間パターンを年次ごとに吟味した。トドマツは明確なパッチ分布をしている。そこでパッチごとに急成長パターンがどう変わるかを、時系列自己回帰モデルを適用して影響を与える年次間隔をAICで選ぶ事により、撹乱intervalの見地から考察した。

いずれの結果も極めてあいまいな要素を残す。確かにAICは時空間的にランダムなモデルより何らかの規則を含むモデルを選んだが、その差は決して大きくなく、モデルのfittingもよくない。従って、巷の森林動態論でささやかれる小規模撹乱によるギャップ動態では、この森の動態を十分には表現できないことは言えるが、「あいまいな森の私」を改めて認識させられる結果であった。

日本生態学会