| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-062

サラワク州ランビル国立公園におけるホソバリュウノウジュの遺伝構造

*小椋剛・名波哲・伊東明・山倉拓夫(大阪市大・院・理)

サラワク州ランビル国立公園に設置された52ha調査区において、フタバガキ科の高木であるホソバリュウノウジュ( Dryobalanops lanceolata)を対象に、個体群の遺伝構造の解明を試みた。胸高直径5cm以上の個体156本の生葉からDNAを抽出し、マイクロサテライト解析を行った。各個体の空間分布から個体群を5つのパッチに分割し、各パッチ内の平均個体間血縁度を求めたところ、3つのパッチは血縁度が有意に高い個体からなる集団であることが示された。各パッチ内の近親交配の程度を表す FISは、パッチによって正の値をとるものも負の値をとるものもあった。次に、胸高直径30cm以上の個体を成熟個体、30cm未満の個体を未成熟個体として個体群を2つの集団に区分した。3本の母樹の樹冠下からそれぞれ100個体ずつ計300個体の実生の生葉を採取し、マイクロサテライト解析により、各母樹の実生集団の FISを求め、さらに実生と成熟個体における親子鑑定を行った。3つの実生集団の FISは全て負の値をとり、近親交配を避けている傾向が示された。しかし、親子鑑定の結果では、空間距離が近い個体間で交配している傾向が示された。これは、血縁度の高い個体が集まってパッチを形成しているという結果と矛盾する。この原因としては、受精から発芽の段階で淘汰が働いて、近親交配による個体が排除されていることが考えられる。

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