| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-063
奈良県春日山原始林に設置された7ha調査区において、コジイ(Castanopsis cuspidata)を対象に、個体群の遺伝構造の解明を試みた。胸高直径20cm以上の187個体の生葉からDNAを抽出し、8遺伝子座についてマイクロサテライト解析を行った。対立遺伝子の数は、最も少ない遺伝子座で2、最も多い遺伝子座で42であった。ヘテロ接合度の観察値は、最も小さい遺伝子座で0.107、最も大きい遺伝子座で0.829であり、多くの遺伝子座において任意交配のもとでの期待値よりも小さかった。次に各個体の空間分布から、個体群を3つのパッチに分割した。各パッチごとのFISの値から、調査した個体群では近親交配がかなり起こっていることが示唆された。集団間の遺伝的分化の程度を示すFSTは、有意な正の値を示し、パッチ間で遺伝的分化が起こっていることが示唆された。さらに各パッチの平均個体間遺伝的近縁度を求めたところ、3つのうち1つのパッチは、近縁度が有意に高い個体から構成される集団であることが示された。次に開花期に双眼鏡を用いて開花の有無を観察した。その結果、花を多くつけている個体から全くつけていない個体までばらつきがあり、開花個体が130個体、非開花個体が57個体観察された。空間分布解析を行ったところ、開花個体は、有意に集中分布していた。また、開花個体と非開花個体の2つの集団間でFSTを求めたところ、有意な正の値を示し、開花個体の集団と非開花個体の集団の間でも遺伝的分化が起こっていることが示唆された。
*本調査研究は、財団法人 日本証券奨学財団より、研究調査助成を受け、行われた。