| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-069
熱帯林では樹種多様性維持機構の解明に向けて、様々な特性の種間差に着目した研究が行われてきた。樹木は繁殖様式、成長および生理的特性の差異によって異なる資源配分を行い、そのため異なる樹冠構造を持つと考えられる。樹冠構造の差異は特に光資源の変化に沿って生じることが示されてきたが、熱帯林では種の豊富さのために群集レベルでの検証が難しく、対象樹種や対象サイズによって報告がきわだって異なる。本研究では、樹冠構造における種間差異が存在するのか、それらの差異は最大樹高、優占度、耐陰性の軸に沿って生じているのかを群集レベルで検討した。
調査はマレー半島パソ保護区50 ha plotで行った。対象種は優占度および成木サイズの広い範囲を包括するように、対象個体はサイズの偏りを避け、200樹種4000個体を調査対象とし、2006、2007年に幹直径、樹高、最下葉群高、樹冠幅を測定した。樹冠構造を定量的に把握するため、各関係をモデル式にあてはめ、階層ベイズモデルを用いて200樹種全体および樹種ごとのパラメータの事後分布と最大樹高を推定した。また、耐陰性の指標としてサイズ分布の歪度を求めた。
樹冠構造において200樹種全体の傾向から大きく外れた樹種差をもつ樹種は限られていた。樹冠構造の樹種差と優占度との関連は見られなかった。幹直径と樹高の関係に最大樹高との関連性がみられたが、樹冠形のばらつきをこの3軸で説明することはできなかった。
光環境の暗い低層では、現時点での受光量を最大にするか、樹高成長に多く投資し将来の受光量に期待するかというトレードオフが生じる。このトレードオフの差異によって樹冠構造は最大樹高と関連している可能性が示唆された。樹冠形における適応差異は、枝や葉などのより小さな部分で生じていると考えた。