| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-070
秋田県の海岸クロマツ林ではクロマツのマツノザイセンチュウ病被害の拡大に伴って、ニセアカシアが分布を拡大している。今後、海岸砂防林を維持・管理していく上で、ニセアカシアの生態を把握することは重要である。しかし、ニセアカシアは地下部で水平根を伸ばし、根萌芽を発生させる高木性のクローナル植物であるため、地上部の調査では栄養繁殖による拡大を考察するうえで限界がある。本研究では海岸クロマツ林内に成立したニセアカシア林分を対象に、SSR解析を併用してニセアカシアが栄養繁殖によってどのように分布を拡大してきたかを明らかにすることを目的とした。
海岸クロマツ林内にパッチ状に分布しているニセアカシア優占林の一つを中心に40×160mの調査地を設定した。樹高3m以上のすべての木本植物を対象として樹種を同定し、幹の胸高直径と位置を記録した。また、調査区内の様々な場所から直径の異なる木30本を選んで年輪コアサンプルを採取し、林分の成立履歴を検討した。更に萌芽の発生状況をみるために樹高1.3m以下の萌芽の位置や根元径、発生様式について調べた。
SSR解析を行った結果、母樹と想定される林冠を形成していたラメットは単一のジェネットによって構成されていた。幹の直径と年輪解析の結果を考え合わせると、この林分では約40年前に定着したニセアカシアが20年前頃からクロマツ林内に広がっていった推測された。ニセアカシアの幹は通常約30年で内部の腐朽により倒伏してしまうと言われているが、ニセアカシアの萌芽発生能に影響を与えるような大規模攪乱がない限り、単一のジェネットとして存在し、海岸クロマツ林内のニセアカシアは構成されているラメットの発生と枯死を繰り返し、長期にわたって広大な空間を確保する可能性があるのではないだろうか。