| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-077
ニホンカラマツ天然分布地域の中心から約300 km離れた宮城県蔵王山系馬ノ神岳(標高1, 580 m )に、「天然生北限のカラマツ」と呼ばれる11個体から構成される(2005年現在)カラマツ小集団が存在する。「天然生北限のカラマツ」はDNA分析からニホンカラマツの変種とされているが、形態や開花時期はニホンカラマツと異なることが報告されている。この小集団はニホンカラマツから隔離されており、集団外からの花粉流入が無いことが明らかにされている。またすでに「天然生北限のカラマツ」がニホンカラマツと比較して遺伝的多様性が著しく減少していることを明らかにしてきた。本研究では、隔離され小集団化した「天然生北限のカラマツ」における交配実態解明を試みた。
林木育種センター東北育種場では、1996年に「天然生北限のカラマツ」より種子を採取し、得られた8家系の実生個体を生息域内、生息域外および東北育種場内において育成している。このうち6家系、98個体についてSSR16マーカーを用いて遺伝子型を推定した。分析に用いた全ての個体において、親集団が保持しない対立遺伝子は出現しなかった。また36個体は自殖と判定され、残り62個体においても母樹自身が花粉親である可能性は排除できなかった。通常針葉樹の自殖率は低いと言われているが「天然生北限のカラマツ」では自殖率が著しく高かった。父性排除検定から花粉親として貢献しなかった親個体の存在が認められた。実生を産出したかったため、この親個体のみ保有する3つの対立遺伝子は実生集団から失われていた。自殖が多いことから実生集団の遺伝的多様性は親集団よりも低いことが予想されたが、実生集団のヘテロ接合度およびallelic richnessは親集団と比較して高くなった。実生を多く残した母樹のヘテロ接合度が比較的高かったことがこの原因と考えられた。