| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-078

山地流域におけるトチノキの遺伝構造から推測される対立遺伝子の拡散過程

*川口英之,幸田怜子(島根大・生物資源),名波哲(大阪市立大・理),舘野隆之輔(鹿児島大・農),井鷺裕司(京大・農)

トチノキは主に渓流に沿った湿潤な立地に生育するため、個体の分布は谷の配置や形状など流域内の空間構造に依存する。尾根や急峻な谷は個体の分布を遮り、送粉と種子散布による遺伝子流動を制約し、個体群の遺伝構造に影響すると予想される。平坦な谷底の幅が数十mある谷からさらに細い谷が枝分かれしている山地小流域において、トチノキの分布と遺伝子型を調査した。

京都府北部、京都大学芦生研究林内の小流域39haでトチノキの位置とサイズ(胸高直径)を記録した。直径20cm以上130個体、20cm未満187個体、最大木の直径180cmであった。遺伝マーカーにマイクロサテライトマーカー6遺伝子座を用いた。対立遺伝子の個数は、23、25、19、19、19、14であった。

個体間の血縁度は近隣個体で有意に高く距離とともに低下した。この傾向は上流の枝谷で顕著だった。小集団に分けた場合の血縁度も上流の枝谷で高かった。このような遺伝構造を対立遺伝子の分布からみると、頻度の高い対立遺伝子のなかに、流域全体に分布するものと,上流の枝谷に集中するものがあった。それぞれの対立遺伝子をもつ個体の分布をサイズごとに描いて,対立遺伝子が分布を広げる過程をみると、そのパターンは対立遺伝子によって異なった。上流の枝谷に集中する対立遺伝子では、全体に分布する対立遺伝子と同様に大きなサイズの個体が存在したが、分布の拡大は小さかった。また、それぞれの対立遺伝子の頻度とその対立遺伝子をもつ最大個体のサイズとの関係をみると、右上がりの指数関数で近似される曲線の下にばらついた。最大個体のサイズを時間の指標とした場合、対立遺伝子の拡散速度にばらつきがあることが示唆された。対立遺伝子の拡散過程には流域内の空間構造が影響していると考えられた。

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