| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-079
地球温暖化など,現代における深刻な環境変化によって,生物集団の多くが縮小・孤立化し絶滅する可能性が危惧されている.樹木の孤立小集団では,種子散布範囲の制限によって稚樹の更新地が限られることや,交配相手の制限によって近親交配が増加して遺伝的な劣化が起こることなどにより,その存続が危ぶまれると考えられる.アカエゾマツ(Picea glehnii Masters)はサハリン南部・千島列島南部から北海道の亜寒帯にかけて広く分布する針葉樹であるが,本州では唯一,岩手県の早池峰山に成木60-70個体が孤立小集団として生育している.この集団では,1948年に発生した土石流跡地に集中して稚樹が分布していること,種子成熟から発芽直後までの自殖率がきわめて高く,強度の近親交配が生じていることが,すでに演者らによって明らかにされている.本研究では,さらに遺伝マーカをもちいて集団の更新プロセスを明らかにする.特に種子散布と近交弱勢が稚樹個体の分布とサイズにどのような影響を与えるか検討することで,孤立小集団の更新メカニズムを明らかにすることを目的とした.
調査地では2005年にアカエゾマツが開花・結実し,翌2006年の7-8月に当年生実生が発生した.本研究では,2007年に分布域全体(約600 x 200 m)をくまなく踏査し,すべての更新個体の位置と個体サイズを測定し,葉サンプルを採集した.採集したサンプルからDNAを抽出し,マイクロサテライトマーカを用いて成木59個体と稚樹約2,800個体との間で親子解析を行った.得られた結果から空間自己相関を考慮した階層ベイズモデルを構築し,種子散布による更新サイトの制限が稚樹個体の分布に与える影響と,種子成熟以後の近交弱勢が稚樹個体の分布とサイズ構造に与える影響を検討した.