| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-081
広葉樹造林における種苗の産地を考慮しない流通が、昨今、保全遺伝学の観点から森林保全における重要な問題の1つとなっている。発表者らは、これまで有用広葉樹であるウダイカンバ(Betula maximowicziana)について、保全単位および種苗配布区の提案を念頭においた系統地理学的研究を展開してきた(Tsuda et al. 2004; Tsuda and Ide 2005)。本研究では、発現遺伝子配列断片(expressed equence tag; EST)情報を利用して開発したsimple sequence repeat (SSR) 14遺伝子座を用いて、分布域を網羅するように採取したウダイカンバ44集団を対象に、その系統地理学的構造をより詳細に調べることを目的とした。集団内の遺伝的多様性は、遺伝子多様度およびallelic richnessともに北の集団ほど値が低い傾向があった。集団分化を示すFSTは44集団全体、北海道(20集団)および本州(24集団)で、それぞれ0.050、0.012および0.057であり、北海道のそれは本州に比べ有意に低かった。STRUCTURE解析(Pritchard et al. 2000)では2つのクラスターが検出され、供試各個体のこれら2つのクラスターの混合率をみると、東北地方南部以北の個体ほどクラスターIの比率が高く、逆に東北地方南部以南の個体は、クラスターIIの比率が高かった。FSTと地理的距離の自己相関は、およそ400km程度の距離階級までは正に有意であった。さらに遺伝的障壁、本州および北海道内での遺伝構造についても言及し、ウダイカンバの系統地理学的構造と保全についての考察を行う。