| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-086

喰われたら減るだけなのか〜ヤクシカ採食圧下で根萌芽が樹木の個体群維持に果たす役割〜

*幸田良介(京大・生態研), 辻野亮(地球研), 藤田昇(京大・生態研)

シカの採食に対する樹木の反応は樹種によって様々である。屋久島西部照葉樹林ではヤクシカの生息密度が増加する中でも、嗜好種であるタイミンタチバナが減少するどころか増加さえして個体群を維持できていた。このように樹木の特性がヤクシカ採食圧の大きい環境での個体群維持に果たす役割は大きいと考えられる。

タイミンタチバナの特性として根を地面と水平に伸ばし、そこから新たなシュートを生じるという根萌芽を形成するということが挙げられる。萌芽の一般的な特性として、実生に比べて生長がはやく生存率が高いことが知られている。そのため萌芽は採食の影響を受けにくいことが予想される。そこで本研究では、タイミンタチバナの根萌芽由来のシュートはヤクシカ採食圧下での樹木の個体群維持に重要な役割を果たしているのではないかと考え、これを検証した。

屋久島においてヤクシカ生息密度が異なる3ヶ所の森林に調査地を設置し、樹高30cm以上のタイミンタチバナ個体の毎木調査を行い、萌芽性や採食痕の有無を調査した。調査の結果、ヤクシカ採食圧が高まるにつれて、稚樹層に占める根萌芽シュートの割合が増えていることが明らかになった。また採食圧の高い地域では根萌芽の生産数が大きいことが分かった。これらのことから、タイミンタチバナは採食をうけると根萌芽をよく生産するようになり、またその根萌芽は高採食圧下でもよく生残することができるために、ヤクシカの嗜好種であるにもかかわらず樹木個体群を維持できていることが示唆された。

日本生態学会