| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-087
周期的に強い流水に晒される渓流帯へと適応・進化した渓流沿い植物(Rheophyte)は、その集団の形成・維持機構や集団遺伝構造が、他の陸生植物とは大きく異なることが予想される。本研究は、渓流帯でしか生育することができない真正渓流沿い植物(Obligate Rheophyte)の個体群動態を明らかにするために、屋久島固有種のホソバハグマ Ainsliaea faurieana(キク科)を、屋久島全域から18集団を採集し、核と葉緑体のマイクロサテライトマーカーを用いて集団解析を行った。核DNAの解析では、非常に高い近交係数(FIS=0.774)と集団分化(FST=0.348)が検出された。これらの結果は、ホソバハグマの集団が、周期的な洪水によって集団サイズの変動を受けていること、また、集団間の遺伝子流動は河川内または近距離の地域に限定されていることを示唆している。さらに、ベイズ解析の結果、近年(1〜3世代間)の集団間の移入は、同一水系内の上流から下流でのみ起こっていることが示唆された。葉緑体DNAでは、安房川・荒川水系の7集団を用いて詳細な解析を行い、上流集団のハプロタイプ多様度が、下流集団よりも著しく低くなっていることを明らかにした。これらの結果から、降水量が多く、湿った渓流環境では、ホソバハグマの分散は主に水流によってなされ、冠毛は痩果の分散にほとんど機能していないことが示唆された。さらに、非常に近縁な姉妹種で、林床に生育するキッコウハグマとオキナワテイショウソウとの比較によって、ホソバハグマの集団は、陸生種と比べて、遺伝的多様度が低く、集団の分化が非常に高いことが明らかになった。渓流沿い植物は、水流による強力な選択圧と、強い隔離環境のもとで生育し、独自の個体群動態を持っていることが示唆された。