| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-089

シダ植物の胞子形成フェノロジーと胞子食者の生活史

*澤村 恵(京大院・人環),川北 篤(京大院・人環),加藤 真(京大院・人環)

シダ類の繁殖器官である胞子嚢は種によって決まった時期に形成される一方で、群集全体としては、厳冬期を除く様々な時期に胞子形成が見られる。このような種特異的な胞子形成フェノロジーの進化には、例えば被子植物で見られるような送粉者をめぐる競争や種間交雑を避けるための咲き分けなどの要因は働いていないと考えられ、どのような生態的要因に支配されているかは大きな謎である。

一方で胞子形成時期に影響を与える興味深い要因としては、シダ類の胞子特異的な植食者である胞子食昆虫の存在が考えられる。しかしながら胞子食昆虫の先行研究は非常に乏しく、寄主特異性や季節変動といった生態学的情報についてはほとんど得られていない。

そこで本研究では、シダ類の胞子形成とそれをめぐる胞子食者の季節動態を明らかにすることを目的とし、京都市貴船と大文字山の2地点において野外調査を行った。

その結果、これらの地域におけるシダ類9科39種の胞子形成フェノロジーが明らかとなり、また、これらのうちの30種が胞子食者から食害を受けていることが示された。胞子食昆虫としては3目12種の昆虫が記録されたが、最も主要な食害を与えていたのはトゲアシガ亜科(Stathmopodinae)の鱗翅目昆虫であった。一部のシダ種ではトゲアシガ亜科による胞子嚢被食率が70%にものぼり、胞子食者による植食圧が無視出来ない程大きいことが示された。さらに驚くべきことにトゲアシガ亜科には6種が確認され、全て未記載種であった。

出現期間が短い胞子食者は比較的寄主特異性が高く、出現期間が長い胞子食者は寄主特異性が低かった。総じて胞子食昆虫には、長期的に出現する寄主特異性が低い種が多かった。

本研究からは、シダ類にとっての最適な胞子形成時期の進化には、複数のシダ種にまたがる胞子食者の存在が重要な役割を果たしている可能性が示唆された。

日本生態学会