| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-093

分布上限と下限のシラビソとオオシラビソの肥大生長におよぼす気象の影響

*奥原勲(信大・理),安江恒(信大・農),高橋耕一(信大・理)

高い標高になるほど、気温が低下し降水量が増加する。そのため同じ樹種でも分布する標高によって、成長に影響する気象因子が異なることが考えられる。中部山岳地帯に位置する乗鞍岳の亜高山帯において、針葉樹であるシラビソ、オオシラビソの2種は、それぞれ標高1600 m〜2200 m,標高2000 m〜2500 mで優占している。本研究では、シラビソ、オオシラビソ、それぞれの分布の上限、下限において、年輪の時系列情報(年輪幅・年輪内最大密度)と気象データ(月平均気温・月降水量)の相関分析によって、肥大成長に影響する気象要因を調べた。その結果、シラビソの年輪幅において、分布下限では成長当年の4月の気温、分布上限では成長当年6月の気温と正の相関がみられた。年輪内最大密度では、どの樹種も成長当年の夏の気温と正の相関がみられ、降水量と負の相関がみられた。両樹種とも年輪幅よりも、年輪内最大密度のほうが気象との相関が高い傾向がみられた。シラビソでは分布下限より、上限の方が気象の影響が高いこと示された一方で、オオシラビソでは分布上限、下限で大きな差はなかった。両樹種の分布が重複する地点においては分布下限のオオシラビソよりも、分布上限のシラビソの方が、気象条件に対する感受性が高かった。以上から、シラビソは、成長期間開始直前や成長期間初期の高い気温が生育期間を長くすることで肥大成長を高め、夏期の高い気温がシラビソ、オオシラビソの年輪内最大密度の上昇に寄与し、降水による日照の短さが光合成量を減少させることで年輪内最大密度を下げることが示唆された。シラビソは分布上限でより気象との相関が強かったが、オオシラビソでは標高間で差がなかったのは、上限と下限で標高の差が小さかったためと考えられる。

日本生態学会