| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-094
標高の上昇に伴う気温低下によって樹木の成長期間が減少する。これまで樹木の成長期間の評価方法として、樹木の幹の周囲長の変化を簡便に調べるデンドロメータ法と、木部の細胞分裂の期間を詳細に調べるナイフマーキング法の2種類の調査方法が使われてきた。しかし、この2つの方法による結果を比較した研究はほとんどない。また、成長期間の違いを樹種間で比較した研究も少ない。
そこでこの研究では、標高傾度(1600m〜2500m)にそって樹木の肥大成長期間がどのように変化するのかを、長野県乗鞍岳において優占する針葉樹2種(シラビソ、オオシラビソ)について2006年5月〜2007年10月にかけて調べた。
肥大成長の開始時期を調べた結果、両種とも標高が高くなる(気温が低くなる)につれて遅れていくことがわかった。しかし、デンドロメータとナイフマーキングから測定された肥大成長の開始時期は2つの方法間で異なり、ナイフマーキングのほうがデンドロメータより1〜2週間早く、特にシラビソで顕著だった。これは木部組織の細胞分裂の開始が、即座には幹の周囲長増加として表れないことを示している。同じ標高では、肥大成長開始時期・終了時期ともにシラビソとオオシラビソの間で差はなかった。また、肥大成長の開始時期は標高1600mと2500mの間で5週間の差があったのに対して、肥大成長終了時期は2週間しか差はなかった。このことから、肥大成長開始には気温が関与し、肥大成長終了には気温以外の要因が大きく関与していることが示唆された。
以上の結果より、デンドロメータ法とナイフマーキング法では肥大成長開始時期・終了時期ともにナイフマーキングのほうがデンドロメータよりも約2週間早く評価されることがわかった。また、今回測定した2樹種(シラビソ、オオシラビソ)の間では成長開始時期・終了時期は同じだった。