| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-098

暖温帯における絞め殺しイチジクの周年結実

大谷達也(森林総研九州)

イチジク属(Ficus)の樹木は花粉を媒介するコバチ類を果実に寄生させており、緊密な共生関係の例としてよく知られている。コバチの1世代が1年間よりも短い期間で完結するので、この送粉共生を維持するためにイチジクの個体群は年間に何度も結実する必要がある(周年結実)。熱帯で発達したとされるこの関係を季節のある温帯でも維持している種類がいくつかあるが、温帯に生育する多くの樹木が季節変化に対応して年間の特定の時期に結実することを考えれば、温帯におけるイチジク属の周年結実は不可思議な現象に思える。温帯に生育するイチジク属の場合、各個体がどのような結実周期をもつことによって周年結実がおこなわれているのだろうか。

鹿児島県屋久島の西部地域は年平均気温19℃、温量指数172ほどと暖温帯の南端に位置する。この地域に生育するアコウ(Ficus superba var. japonica)の74個体を、2003年6月から4年半にわたりおよそ26日間隔で観察した。その際、各個体の結実量(8段階の指標)および葉の状態を記録した。その結果、いずれの季節においても結実・展葉する個体があるものの、各調査時点における結実・展葉個体の割合には年周期が認められた。また、結実の開始時期や各調査時点における結実量をもとに個体を分類したところ、冬季に規則的に結実するもの、夏季に何度か結実するもの、およびランダムな時期に結実するものに分類することができた。暖温帯に生育するイチジクでは、全体として気温の変化に対応しながらも、異なる結実特性をもつ個体が混在することによって個体群として周年結実が維持されているといえる。

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