| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-101

ミズナラ樹木個体のフェノロジーと種子の死亡要因との関係

夏目暁子(名大院生命農),水谷瑞希(福井県自然保護センター),肘井直樹(名大院生命農)

ブナ科植物では、生産された種子のうちのかなりの割合が、地上への散布前に昆虫類の食害を受けていると考えられている。植物が生育する気候条件は、植物の成長や繁殖に直接的に影響を及ぼすだけでなく、このような、種子を食害する昆虫類への影響を介して、間接的にも影響を及ぼす。次世代生産を大きく左右すると考えられるこの影響は、全体の食害の量や程度だけでなく、繁殖段階のどの時期に食害を受けたかという点からも評価される必要がある。

気候条件の違いが、種子食昆虫による食害パターンをとおしてミズナラの雌繁殖器官に及ぼす影響を、約30 km離れた、異なる2林分(以下、S区(標高795 m)、H区(標高971 m))において調査した。2007年のミズナラの開花期から堅果落下期にかけて、各区10本ずつの樹冠下に設置したリタートラップ内に落下した堅果を、2週間に一度回収した。堅果は、それぞれ幅(W)と長さ(L)を測定したのち、切開して内部状態を記録した。

その結果、回収された健全落下堅果数は、S地区では0個 m-2と、そのほとんどが何らかの食害を受けていたのに対し、H区では0〜33個 m-2と、樹木個体によって大きく異なっていた。H区において、落下堅果の発達段階の指標となる容積(LW2)を算出したところ、同じ時期の落下堅果の容積は、樹木個体によって異なっており、堅果の内部状態、とくに昆虫の食害を受けていた落下堅果の割合は、その容積と関連していた。堅果落下総数が多い樹木個体では健全堅果の落下数も多い傾向にあったものの、この結果から、健全堅果の落下数には、昆虫の食害時期とその時点での樹木個体ごとのフェノロジー(堅果の発達段階)の違いが影響していることが示唆された。

日本生態学会