| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-107
[目的]ニホンザルでは排卵の時期以外にも交尾をすることが知られており、排卵を隠蔽することによって父性を攪乱する、精子競争を促進してより優秀な遺伝子を獲得するなどの諸説が提唱されている。しかしながら、野生個体を対象とした交尾行動に関する実証的研究は少ない。本研究は、1)メスの卵巣周期と交尾行動との関連について明らかにする、2)実効性比が交尾戦略に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
[方法]調査は宮城県金華山島に生息するニホンザルの群れ(A群)を対象に、1997年と1999年の9月から12月まで行った。それぞれの年において、オトナメス6頭について、各メス1日おきに個体追跡法により交尾行動の詳細を記録するとともに、糞中生殖関連ホルモン(E1CおよびPdG)の動態から排卵日と受胎の有無を調べた。
[結果]1997年および1999年における実効性比(発情メスの数:交尾可能なオスの数)はそれぞれ1:0.9および1:2.2であった。交尾頻度は、いずれの年も、全てのメスにおいて受胎可能性の高い排卵周辺期(排卵日およびその前後1日)に最大となった。しかし、各メスが交尾したオスの頭数は、1997年では排卵周辺期に最も多かったが、1999年ではむしろ減少した。また、いずれの年も、排卵周辺期には群れの最優位オスとは1回も交尾がみられなかった。以上のことより、発情メスの数が少ない場合は、オス間競合が強くなり、排卵周辺期のメスとの交尾は特定のオスによって独占されるが、発情メスの数が多い場合には、メスはより多くのオスと交尾をすることがわかった。さらに、メスは順位の高いオスを交尾相手として必ずしも選択しないことが示唆された。