| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-108

雌から受ける雄の物理的コストと婚姻贈呈によるコスト緩和

*栗和田隆(九州大・理・生態), 粕谷英一(九州大・理・生態)

性的対立(sexual conflict)という考えが広まるとともに、交尾時に雌が雄から傷つけられているという報告が増えつつある。逆に雄が雌から傷つけられているという報告は性的共食いを除くと注目されていない。しかし、交尾時に闘争などの雌雄間の攻撃的な相互作用が見られることは多く、雄の負傷は十分に考えられる。雄が生涯に複数回の交尾機会を持つ種の場合、雌から負わされた傷はその後の交尾に多大な悪影響を及ぼすだろう。そのため、何らかの対抗手段を雄が進化させている可能性がある。本研究では、雄が生涯に複数回交尾をおこなうスズムシMeloimorpha japonicaを材料に、まず実際に雄が雌から傷つけられているのかを検証した。その結果、約半数の雄が雌によって交尾器や求愛器官である前翅を傷つけられていることがわかった。さらに、交尾時間が長くなる程、負傷する確率が高まることもわかった。一方で、交尾時間の短縮は、雌がその後に他の雄と再交尾しやすくなり、父性確保の面でコストとなることが示された。

次に、雄に対抗手段があるのかを検証した。スズムシの雄は胸部背面に誘惑腺という器官があり、そこからの分泌物を雌が舐めることで交尾が開始される。我々は、この婚姻贈呈に雌からの攻撃を逸らす機能があると考えた。そこで誘惑腺を塞いで雌と交尾させる実験をおこなったところ、誘惑線を塞がれた雄は塞がれていない雄と比べてより多く雌との闘争が起こった。ただし、分泌物を与えた雄は寿命が減少するというコストも被っていた。本講演では、分泌物によって雌の攻撃性が変わるのかを調べた実験結果と併せて、婚姻贈呈が雄の負傷回避に果たす役割について考察する。

日本生態学会