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一般講演(ポスター発表) P1-110
鳥類の雌が社会的につがい関係にない雄と交尾をして受精する婚外受精は、分子手法の利用により近年、注目されるようになってきた。コロニー性の海鳥であるオオミズナギドリ Calonectris leucomelas は育雛期に300kmを越える長距離のトリップをおこなうことが知られている。このように育雛に多大なコストを要する種では雌が乱婚によって複数の給餌雄を獲得することは大きな利得であるため、婚外受精が生じやすく、さらにはトリップ行動にも影響を与えると予想される。そこで本研究では岩手県釜石市に位置する三貫島を繁殖コロニーとするオオミズナギドリを対象に、婚外受精の発生状況を把握し、巣穴の位置関係やトリップの状況などとの関係を検討するため、核DNAマイクロサテライトマーカーを用いた親子鑑定をおこなった。
2006年と2007年の7月から10月に三貫島に設置した70巣の人工巣箱内にいた雛97羽と親と思われる巣箱内の成鳥および、ランダムに捕獲した巣外の成鳥計276羽からDNA解析用の羽毛を採取した。このとき同時に親および雛への個体識別リング装着、形態計測もおこなった。
三貫島のオオミズナギドリをもとに多型を有するマイクロサテライトマーカー17個を開発し、うち8個を用いて親子鑑定をおこなったところ、雛と親子関係にない成鳥が居住する巣が多数存在することが確認された。この結果はコロニー性の海鳥では高い繁殖密度ゆえに婚外交尾は頻繁に起こるものの、受精には至らないとする既往知見に反する。また、婚外受精の確認された巣は特定の場所に集中する傾向がみられ、巣の空間的分布が婚外受精の発生に影響を与えている可能性が考えられた。