| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-114

アゲハ類の雄が生産する精包と精子

*佐々木那由太,渡辺 守(筑波大・生物)

チョウ類の雄は交尾の度に1個の精包を雌に注入する。この精包は、種によっては雄の体重の15%にもなり、雄にとって大きな負担となる場合があることがわかってきた。一方、雌は精包内の精子を受精に用いるだけでなく、体の維持や卵生産のための栄養として精包を吸収している。雌は、交尾嚢内の精包を崩壊させると再び交尾を受け入れるので、雄にとって自らの繁殖成功度を高めるためには、大きな精包を注入することで崩壊までの時間をかせぎ、雌の再交尾を遅延させることが重要であると考えられる。雌体内で他の雄の精子との受精をめぐる競争が起こるなら、交尾時に多数の精子を注入することも必要であろう。雌が複数回交尾する種では雄の生涯交尾頻度も高いので、一旦交尾した後、再び交尾を行なうときに注入する精包の大きさや精子数を早く回復させる必要もある。アゲハ類の雌の生涯交尾回数は、ナミアゲハで3回、クロアゲハで2.5回、キアゲハで1.2回であった。飼育羽化させたそれぞれの種の雄を羽化翌日に未交尾雌とハンドペアリングで交尾させたところ、どの種の交尾時間も平均1時間で、注入された精包は6mg程度であり、種間で差は認められなかった。含まれていた有核精子束数は、ナミアゲハで40本、クロアゲハで140本、キアゲハで110本と、ナミアゲハが最も少なかった。一方、同時に注入された無核精子は、3種とも17万本程度であった。これらの雄を2日後に再び交尾させると、ナミアゲハが約3.6mg、キアゲハが約2.4mgの精包を注入した。しかし、有核精子束数はナミアゲハが60本と、約1.5倍に増加させたのに対し、キアゲハでは75本にすぎなかった。再交尾時に注入した無核精子の数は、ナミアゲハが18万本、キアゲハが21万本であり、大きな差は認められなかった。これらの結果から、アゲハ類の雄の繁殖戦略を考察した。

日本生態学会