| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-115
雄が代替繁殖戦術を持つ種では、精子競争は典型的にスニーカーがなわばり雄の配偶に参加するときに生じる。これまでの理論モデルや野外研究は、精子競争への投資パターンが戦術間で異なることを示している。しかしながら、これらの研究は同じ戦術を持つ雄は同じ精子競争の危険性に直面することが前提となっており、戦術内の精子競争の危険性の変異は考慮されていない。同じ繁殖戦術を持つ雄であっても直面する精子競争の危険性が異なるとき、精子競争への投資パターンに違いが生じることが予想される。
我々は、雄が複数の繁殖戦術(スニーカー、なわばり雄、乗っ取り雄)をもつカワスズメ科魚類の1種Telmatochromis vittatusを用いて、なわばり雄の精子競争の危険性を個々に評価し、精子の質(寿命と鞭毛の長さ)との関係を調べた。本種のなわばり雄のうち、競争力の低い雄はしばしばより競争力の高い大きな乗っ取り雄に雌を奪われ、ペア繁殖の機会を失う。乗っ取られたなわばり雄はその代わりにスニーキングによってその後の繁殖に参加する。このため乗っ取られやすいなわばり雄はスニーキングの頻度が高く、同時に精子競争の危険性も高まる。このような精子競争の危険性の高いなわばり雄は、精子競争の危険性の高いスニーカーと同じように長寿命・短鞭毛の精子を生産した。これに対し、精子競争の危険性の低いなわばり雄は、常にペア産卵を行える乗っ取り雄と同じように短寿命・長鞭毛の精子を生産した。本研究は、同じ戦術であっても受ける精子競争の危険性は個体ごとに異なり、それによって雄は配偶子レベルで対応することを示している。また、同じ戦術内で精子の質に違いがあることは、本種の雄は精子の質を生涯の内に変えられることを示唆する。最後に、精子競争の危険性の高い雄が長寿命の精子を生産する理由をスニーキング行動と関連付けて議論する。