| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-119

モテる雌とモテない雌の適応度:アオモンイトトンボの雌に生じる色彩2型

*高橋佑磨, 渡辺 守(筑波大・生命環境)

イトトンボ科昆虫の雌には、雄に似て鮮やかな青緑系の体色をもつオス型と、生息地の背景に対して隠蔽的な茶系を示すメス型の2型が出現する。これまで、雌の色彩2型は、雄からの性的干渉が選択圧となる負の頻度依存的選択により維持されていると考えられてきたが、雄による性的干渉と雌の繁殖成功度との関係は調べられていなかった。本研究では、雌の色彩2型に対する雄の配偶者選好性を2型の出現比の異なるアオモンイトトンボの4つの地域個体群において調べるとともに、両型の雌の繁殖成功度を比較した。交尾活動が終了し、産卵や採餌の活動が始まる時間帯(12:00-14:00)に、水際の草地で静止中の雄に対して、両型の雌を同時に呈示する二者択一実験を行なったところ、雄は、どの個体群においても、多数派の型の雌に選択的に交尾を試みることがわかった。このことは、多数派の型の雌が、産卵・採餌時間帯に、雄からの性的干渉を受けやすいことを意味している。一方、採餌時間帯の終了する夕方(15:00-16:00)に両型の成熟雌を捕獲し、その後24時間以内に排出した糞の乾燥重量を測定したところ、少数派の型の雌は、多数派の型の雌より有意に多量の糞を排出していた。両型の採餌習性に違いがなかったとすれば、少数派の型の雌は多数派の型の雌よりも摂食量が多かったといえる。野外で様々な時間帯に雌を捕獲して解剖すると、産卵活動の直前に捕獲した雌では、少数派の型の雌が多数派の型の雌よりも有意に多くの成熟卵を保有していたが、産卵活動時間帯の後に捕獲した雌では、産み残したと思われる成熟卵が少数派の型の雌で少なかった。したがって、少数派の型の雌の日当り産下卵数は多く、雄による性的干渉が雌の採餌行動や産卵行動を妨害するために、干渉を受けやすい多数派の型の雌の繁殖成功度が低下したと考えられた。

日本生態学会