| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-122
モンキチョウの雌は早朝に草むらの中で羽化し、翅が展開しきる頃には雄に発見され、ほとんど求愛を受けずに交尾を済ませてしまう。したがって、野外で飛翔している雌は、原則として交尾を経験済みの雌といえる。野外で見られる雄の求愛は、飛翔中の雌を発見・接近した雄が、前に進もうとする雌の前方に定位しながら飛翔する「求愛飛翔」から始まる。雌は生涯に2〜3回しか交尾を行なわないので、多くの経験雌は雄の求愛に消極的で、逃げたり交尾拒否姿勢を示したりしてなかなか連結を許さない。しかし、求愛を受け入れる経験雌も少数ながら存在する。この場合、雌は草の上に着陸し、自ら腹部を雄の方に曲げ、雌雄は連結する。求愛飛翔後の行動連鎖の実験を、雌の頭部と胸部の間を糸で輪にして結び、釣竿の先につないで行なった。このようにすると、糸は雌の飛翔行動にほとんど影響を与えず、雌は通常と同じようにはばたくことができる。はばたきながらゆっくりと飛翔する雌を認めた雄は、雌に接近し求愛を開始した。しばらくすると雌ははばたきをやめ、翅を閉じるので、直ちに近くの草にとまらせたところ、呈示した雌が未交尾の場合、雌は腹部を曲げていた。これを見た雄は、直ちに雌の傍に着陸して連結するので、雄は簡単に「釣れ」てしまう。一方、呈示雌が交尾を経験した個体だった場合、はばたきを終えても腹部を曲げなかった。雄はしばらく雌の傍で求愛飛翔を継続したが、雌が腹部を曲げないため、着陸せずにあきらめて去ってしまった。中には腹部を曲げていない雌の傍に強引に着陸し、連結を試みようとした雄もいたが、雌は腹部を曲げないばかりか、翅を拡げて交尾拒否姿勢を示したりしたので、連結は成功しなかった。モンキチョウにおいて、着陸した雌が自ら腹部を曲げる動きは、雌雄の連結に至る重要な刺激であったといえる。