| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-125

サッポロフキバッタ地域集団間の生殖的隔離機構

*佐々木有香,菅野良一,秋元信一(北大・農)

性的対立は生殖的隔離の進化と種分化において密接な関わり持っている、とする新しい理論に近年注目が集まっている(Parker and Partridge 1998, Holland & Rice 1998)。北海道に分布するサッポロフキバッタは飛翔できないため、地域集団で形態や交尾行動に明瞭な地理的分化が見られる。先行研究では、オスの交尾活力とメスの交尾拒否力が地域集団間で大きく異なることが示され、こうした地理的分化はオスーメス間の対抗的な共進化によってもたらされた証拠が得られている。地域集団をかけ合わせると、交尾活力と拒否力の力関係から、ある集団のオスと別の集団のメスの交配頻度が、その逆の組合せの頻度よりも有意に高くなった。しかし、ある集団間の交配で得られた卵は、その交配が高い頻度で生じる場合であっても、ほとんどが単為生殖卵であることが分かっている。そこで、集団間交配がどの程度繁殖成功に寄与するかを明らかにするために、集団内と集団間で交配を強制し、交尾継続時間と精子輸送量を測定した。その結果、頻繁に交配が起こる組合せであっても、集団間交配ではオスは他集団のメスにごくわずかの精子しか移送していないことが明らかになった。精子移送が行われない要因としては、隠されたメスあるいはオスによる選択、そして雌雄の交尾器形態の不一致が考えられる。そこで、この精子移送が起こらない要因を明らかにするため、交尾器の形態計測を行った。その結果、雌雄共に集団間で交尾器の形態が異なることが明らかになった。以上の結果から、集団の間で頻繁に交配が生じる場合であっても、交尾器の不一致によって受精前の生殖的隔離が生じうることが示唆された。

日本生態学会