| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-128
多くの甲殻類では、雌が脱皮直後にしか交尾できないため、雄が脱皮の近い雌をガードする。この交尾前ガードは、性比が雄に偏る場合や、雌に出会う確率が低いときなどに早く開始され、結果的にガード時間は長くなる。また、交尾前ガードは性的対立を引き起こす可能性が強く、雌は摂餌や成長の制限、捕食圧の増加など、何らかのコストを受けている可能性がある。
ワレカラ類は通年繁殖・直達発生・多回繁殖の生活史形質を持つ甲殻類であり、交尾前ガード行動を行う。本研究では、マルエラワレカラCaprella penantisのガード行動に注目して研究を行った。本種のガード行動は、雄が雌を完全に抱きかかえるため、雄は雌の行動を制限する。また、雌は雄のガード行動に対し、逃走や体を後方に反らすといった抵抗を見せる。
本研究では、マルエラワレカラの性的対立を検証するために、(1)ガード形成時の雌雄の行動と産卵までの時間、(2)性比と雌の適応度成分の変化、の2点について研究を行った。まず雄2個体・雌1個体を一緒に飼育し、実験開始から1時間の雄のアプローチ、またそれに対する雌の抵抗を観察した。その結果、雄と接触のあった雌の多くは、雄のアプローチに対して抵抗を見せたが、抵抗の有無と雌の産卵までの時間には関連がなかった。また、性比の異なる3つのグループで飼育を行い、雌の体サイズ、産卵回数、産仔数を測定した結果、性比を雄に偏らせたグループでは、性比の等しいグループ、雌に偏ったグループに比べ、抱卵回数に違いはなかったものの、雌の成長、産仔数は共に小さくなった。これらのことは、雌は繁殖に関する雄の過剰なアプローチを嫌がっており、雄間の競争が激しくなりガード時間が長くなるとき、成長また産仔数にコストを受けることを示唆している。