| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-135

潜葉虫寄生蜂における最適採餌戦略 〜観察結果のシミュレーションモデルによる検証〜

*綾部慈子(名大・森林保護), 津田みどり(九大・生防研), 望月敦史(基生研・理論生物)

植食者の防衛行動は寄生蜂の採餌戦略の発達に影響する重要な要素である。しかし、植食者の防衛に対する適応という視点から行った採餌行動の研究例は非常に少ない。本研究では、潜葉虫Liriomyza trifoliiとその寄生蜂Hemiptarsenus varicornisを用い、潜葉虫の防衛に対する寄生蜂の採餌戦略の適応について検証する。

潜葉虫は葉の内部組織のみを摂食し、マインと呼ばれる白く目立つ線状の摂食痕を残す。マインは交差や分岐構造によって二次元的に複雑なパターンとなり、寄生蜂はマインを辿ることで(Mine tracking)寄主幼虫を発見する。これまでの研究から、L. trifoliiの複雑なパターンのマインは、単純なものに比べ、寄生蜂の寄主発見までの探索時間を増加させ防衛効果をもつことが判明している。一方、寄生蜂H. varicornisは、一度マインを離れ別の場所から同じマインを辿り直すという特異的な行動を示す(複数回探索; Multiple tracking)。

マインを辿り直すことは、マインの交差や分岐上で蜂が迷い時間が浪費されることを防ぐ可能性があると考え、蜂の行動観察とコンピューターシミュレーションを用いて検証した。まず、H. varicornisの行動観察から、寄生蜂のmine tracking終了確率は0.058であり、蜂のtracking中の行動やマインパターンに影響されないことが判明した。次にシミュレーション結果から、tracking終了確率には、マインパターンの複雑化に伴う探索時間増加を最小限に抑えるような最適値が存在し、それは行動観察で得られた値と一致することが判明した。つまり、H. varicornisの複数回探索は潜葉虫の防衛に適応した最適採餌と結論できる。

日本生態学会