| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-137
一度食べつくされても徐々に回復する花蜜などを利用する採餌者はしばしば、比較的せまい範囲を個体ごとに採餌域とし、その場所を繰り返し訪れて餌を集める。しかし餌資源は有限であり、競争者と採餌域が重複することも多い。採餌域の重複はどんな場合でも採餌速度の低下をまねくので、何らかの方法で重複を軽減したほうがよいだろう。採餌域を移動することは一つの方法であるが、これには新たな場所への移動や探索、学習などのコストを伴う。この場合にもっとも都合がよいのは、自分は現在の採餌域から移動せず、競争相手が先に別の場所へと移動することである。よって個体にとっては、採餌域が重複しても、なかなか相手に場所を「ゆずらない」のが得策と考えられる。
しかし、これには例外も考えられる。たとえば、社会性昆虫の、巣を同じくする採餌個体どうしでは、自分と相手のどちらが採餌域を移動しても、巣にかかる全体のコストは等しい。したがってこの場合には、個体は競争による採餌速度の低下が長引かぬよう、たがいにすばやく場所を「ゆずりあう」のが得策と考えられる。
本研究では、クロマルハナバチと中型ケージ(16m2)を用いた室内実験により、上記の可能性を検証した。実験では15個の人工花序を1列に並べ、同じ巣の働きバチ2個体(身内どうし)を同時に採餌させ、これを個体間の競争とした。また、同様の実験を、たがいに異なる巣の働きバチ1個体ずつ(他人どうし)でも行った。人工花序への訪問頻度を両実験で記録し、採餌域の重複がどのように時間変化するかを比較した。その結果、他人どうしの競争よりも身内どうしの競争の方が、すばやく採餌域の重複を減らし、場所を「ゆずりあう」傾向が強かった。この結果は、競争相手と利害が一致するかどうかによって社会性昆虫が柔軟に採餌戦略を変えていることを示す、重要な知見である。