| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-138
緑色−褐色の色彩二型はバッタなどでひろくみられる。その適応的意義は、それぞれ緑の草および枯れた草で隠蔽的なこととされている。しかし検証例はなく、さらに他の要因についてもほとんど検討されていない。そこで本研究ではコバネイナゴのメスを用いて、緑色−褐色二型の背景選好性と行動の違いについて調べ、その適応的意義について考察する。
コバネイナゴの胸部の背面と側面には緑色−褐色の変異があり、本研究では背面の色により緑色型と褐色型を区別した。調査地において草地では緑色型が多く、隣接した草刈り直後の枯れ草地では褐色型と緑色型がほぼ同数だった。草地では緑色の植物が直立し、一方枯れ草地では褐色の枯れ草が横倒しになっていた。背景の色と植物の生育方向(直立と水平)を操作してイナゴの選好性を調べたところ、緑色型も褐色型も背景の色ではなく、植物の異なる生育方向(緑食型は直立、褐色型は水平)を好むことが分かった。つまりそれぞれの体色型は植物の生育方向の好みが異なることでそれぞれ隠蔽的になる背景を選択していることが分かった。
さらに体色による活動性、体温の違いを野外と実験室の異なる輻射熱条件下で調べ、この結果を各体色型の物理的輻射熱利用効率(死後直後の標本を利用)と比較した。野外では褐色型のほうが緑色型よりも体温が高く、活動性も高かった。実験室においても活動性に同じ傾向が認められ、体色型間の違いは高輻射熱区でより大きかった。しかし標本の体温は体色型によって変わらなかった。つまり、体色型による活動性と体温の違いは、単に体色によって輻射熱利用の効率が異なるためではなく、何らかの行動的違いに起因していることが示唆された。コバネイナゴの色彩二型は、体色だけでなく行動の違いも伴うことが分かった。