| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-145

たちのよいケガ、悪いケガ−バッタにとっては、自切は想定内!?

*本間 淳,西田隆義(京大院・農・昆虫生態)

捕食者による被食者へのインパクトは、直接の捕食による被食者密度の低下に限らない。近年は、被食者にケガを負わせることによる非致死的効果の影響の大きさにも注目が集まっている。被食者が受けるケガには、ふつうのケガである「受動的」なものと、自切などの「能動的」なものがある。自切は、捕食者に襲われた際に体の一部を犠牲にして捕食を回避する行動であり、コバネイナゴは、鳥類捕食者に襲われた際、腿節−脛節の関節部分(ひざ)をつつかれるという特異的な刺激によって、転節−腿節の関節部分を切り離すかたちで自切を行う。

演者等の以前の研究の結果、能動的なケガである自切は、それにともなうコストを小さくするような適応が起きていることが考えられた。そこで今回は、後脚に受動的なケガを受けた場合との比較を行うことで、この仮説を検証した。

まず、高速度カメラを用いて、脛節を切除した個体(受動的なケガ)と自切個体(能動的なケガ)の跳躍行動の様子を撮影し、健全個体との比較を行った。自切個体は健全個体に比べて跳躍スピードは低下していたが、片脚にもかかわらずまっすぐに跳躍できていた。脛節先端部(かかと)を切除した場合には跳躍行動にはほとんど影響は見られなかったが、脛節基部(ひざ下)を切除した場合は跳躍の瞬間にバランスを崩してしまい、自切個体よりも跳躍スピードが遅かった。

つぎに、ひざをつままれてから自切するまでの時間を、「健全」・「ひざ下切除」・「かかと切除」間で比較すると、「ひざ下切除」が他の処理に比べて有意に速く自切を行った。

よって、イナゴにとって能動的なケガである自切をした場合には、その後の跳躍行動もうまく調整できるが、脛節の受動的なケガは場所によっては跳躍行動に大きな支障をきたすため、園場合にはイナゴはケガを負った脚を自切しやすくすることが分かった。

日本生態学会