| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-146

森林におけるエゾタヌキの季節的な土地利用変化とその要因

*荒木奈津子(北大・院・環境科学),揚妻直樹(北大・北方圏センター)

動物は採食・休息・繁殖などのために特定の資源や場所を利用する傾向にある。従って、その動物の生態的特性を理解する上で、行動圏の解析は重要となる。本研究の対象であるタヌキ(Nyctereutes procyonoides)は食肉目イヌ科の中型動物である。これまでのタヌキの生態研究は都市近郊や里山といった人為的影響の強い場所で行われてきた。そのため、本来の生息地である森林内でのタヌキに関する知見はごく限られている。行動圏の研究に関しても、タヌキが実際に利用するエサ資源や巣穴環境との対応関係から分析したものはわずかである。そこで、本研究では北海道の森林地帯に生息するタヌキについて、資源の分布と土地利用の関係を検討した。

まず、タヌキが利用するエサ資源を把握するために、フンの内容物分析を行った。その結果、タヌキの食物構成は月ごとに変動しており、甲虫食期(4〜8月)・サルナシ果実食期(9〜11月)・越冬期(12〜3月)の3つの季節に大別できた。そして、調査地でのサルナシ果実と甲虫の月ごとの現存量とそれぞれがフンに含まれる割合には有意な正の相関が見られることが解った。

10頭のタヌキの土地利用をラジオテレメトリー法により把握した。さらに、彼らの行動圏内に67ヶ所調査地を設けエサ資源や巨木など休息場所となる環境要因を調べ、空間補間法によって、各環境要因の分布を推定した。その上で各季節の土地利用パターンと環境要因の分布を分析した。その結果、甲虫食期の土地利用は大径木および倒木の分布と正の相関が見られた。サルナシ果実食期ではサルナシおよびミミズの分布とは正の、草丈高と負の相関があった。越冬期ではサルナシと大径木とは正の、低木とは負の相関があった。これらのことから、調査地のタヌキは季節により異なる環境要因によって土地利用を決定していることが示唆された。

日本生態学会